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「指だけで弾かない」とは、具体的にどういうことか

執筆者の写真: Musashi Ishikawa
Musashi Ishikawa
9月24日
読了時間: 6分

「指だけで弾かないで」「もっと腕を使って」

ピアノのレッスンでこう言われても、何を変えればよいのか分からない方はいると思います。ある程度弾けるようになってからも、レガートのつながりや音色に行き詰まり、その意味を考えることがあるかもしれません。


師事したジャック・ルヴィエからも、「腕を使え、指を動かそうとするな」とよく言われていました。ルヴィエは、パリ国立高等音楽院で長年指導にあたり、ザルツブルクのモーツァルテウム大学でも教鞭を執ってきたフランスのピアニストです。(公式プロフィール)


その教えを受け、演奏と指導を重ねる中で大切にしてきたのが、肩甲骨から腕、指先までの動きのつながりです。今回は、その経験をもとに「指だけで弾かない」とは具体的にどういうことかを書いてみます。


「指だけで弾いている」は、音と動きに表れる

レッスンで、レガートがうまくつながらない、音が固くなると感じたときには、指と腕の動きの関係を確認します。


指は動いているのに、腕や肩は止まっている。指が次の音へ進んでも、腕の動きが伴わない。こうした協調の見られない状態が、「指だけで弾いている」と感じる場面です。


鍵盤に触れているのは指ですが、その指は手、腕、そして肩へとつながっています。このつながりを、動きの中でも保つことが大切です。


指・手・腕が協調して働く

「指だけで弾かない」を理解する鍵になるのが、指・手・腕の「協調」です。指が鍵盤に働きかけるとき、その動きに手や腕も参加する。腕を使うことを、指との関係の中で捉えていきます。


この協調を奏法の中心に置いたのが、アメリカのピアノ教育者ドロシー・タウブマンです。彼女が発展させたタウブマン・アプローチでは、指・手・前腕が適切につながって一緒に動くことを重視し、coordinate motion(協調した動き)を基本原理としています。(基本原理の説明)

この考え方には、ルヴィエから学び、演奏や指導の中で大切にしてきたこととの共通点を感じます。「指だけで弾かない」という言葉も、指・手・腕の協調として捉えることで、何を変えるべきかが見えてきます。


では、そのつながりをどう作っていくのか。ここからは、レッスンで伝えている身体の使い方と、自分自身の感覚を、座り方から説明します。


腕を使う準備は、座り方から

最初に確認するのは、座り方です。

目安は、坐骨を椅子の座面に対してまっすぐに置くこと。骨盤が後傾していないかを確認します。


また、骨盤を前傾させればよいということでもありません。前傾して上体も前へ倒れると、肩をすくめるような姿勢になり、動作が窮屈になります。


身体を支える感覚として大切なのは、腹圧をしっかりかけ、腹筋と背筋のバランスを取ることです。体幹で必要な部分を支えながら、腕自体には能動的に力を入れようとせずに弾く。この支えと腕の自由さを、座り方から確かめていきます。


腕を一か所に止めず、動きをつなぐ

レッスンでは、指の根元は腕につながり、腕は肩の根元からつながっていることを伝え、肩甲骨から動かすように説明しています。


そのとき大切にしているのが、腕が常に動き続けているイメージです。腕を一か所に止めようとすると、そこに力みが生まれると感じています。


動きには、外から見えるものもあれば、身体の内側で続いているように感じるものもあります。見える動きであっても、小さな動きをゆっくり続けていることがあります。


基本的には、一つのレガートのパッセージの中で肩甲骨が徐々に開き、それに伴って腕が動き、打鍵しながら上昇していく。そして、次のフレーズの最初の音を弾くときに下降する。これが、演奏の中で持っている動きの感覚です。


この上昇は、音が高くなる方向に合わせるという意味ではありません。一つのレガートのまとまりの中で、動きをどうつないでいくかという話です。特定の曲だけに使う工夫ではなく、曲を問わず基本にしている身体の使い方です。


鍵盤の底を押し続けない

腕の動きが続いている間、指は鍵盤にアプローチします。そのときの感覚は、必要な分だけ重さを預ける、というものです。


打鍵したあとも鍵盤の底を押し続けることはしません。次の音へ移るときに、預けた重さを滑らかに受け渡していきます。


この受け渡しができると、音と音の間に段差ができず、レガートがつながるように感じます。指と腕の動きが協調することと、音が滑らかにつながることは、こうした感覚の中で結びついています。


レッスンでも、動作の形とともに音の変化を聴いています。押さえつけたような音がなくなり、楽器がよく鳴るようになることが、伝わったかどうかを確かめる手がかりになります。


肩をすくめることとの違い

「肩甲骨から動かして」と伝えると、肩を上げて力んでしまったり、肘を持ち上げたりする方もいます。


説明したいのは、肩甲骨から腕、指先までがつながって動く感覚ですが、言葉だけではその違いが伝わりにくいことがあります。


そのため、レッスンでは実際に動きを見せ、必要であればこちらの身体に触れてもらいます。どこがどう動いているのかを、見た目と触れた感覚の両方から知ってもらうためです。


練習では、こうした身体の使い方を意識して確認します。腕を途中で止めていないか、鍵盤の底を押し続けていないか。そして、次の音へ滑らかに受け渡せているかを、音でも確かめます。本番では一つずつ意識しない動きも、練習の中では丁寧に扱っていきます。


身体のつながりが、音のつながりになる

「指だけで弾かない」とは、肩甲骨から腕、指先までの動きをつなげ、次の音へ滑らかに重さを受け渡していくことだと考えています。


そのつながりが生まれると、レガートが滑らかになり、押さえつけたような音がなくなって、楽器がよく鳴るようになる。「腕を使え」というルヴィエの言葉を、今はこうした音の変化と結びつけて理解しています。

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