「だいたい」のリズムが曲を変えてしまう。リズムの正確さは、表現の土台

付点のリズムが甘くなる。三連符がつぶれる。スラーの切れ目がいつの間にか消えている。

レッスンでとてもよく出会う悩みです。大人の生徒さんに限りません。音大生でも、リズムがかなり「だいたい」になっていることは珍しくありません。

留学時代の師ジャック・ルヴィエは、リズムについてとても厳しい人でした。レッスンでも、公開レッスンやマスタークラスでも、「リズムがクリアじゃない」「正確じゃない」と繰り返していたのをよく覚えています。これは先生個人の癖というより、楽譜に忠実であることを大切にする、フランスの音楽教育全体に通じる姿勢なのだと思います。

前回は、フレーズがどこへ向かい、どこで終わるのかを考えました。今回は、そのフレーズを下で支えている時間の話です。リズムを正確に弾くとはどういうことか、を考えてみます。

「だいたい」のリズムは、曲の性格を変える

ルヴィエの師でもあったジャン・ファシナは、『若いピアニストへの手紙』の中で、リズムを「だいたいこのくらい」で見積もることを、家の骨組みを数センチ間違えることにたとえています。そして、こう続けます。

「きっと建物全体がガタついてしまうだろう」 (ジャン・ファシナ『若いピアニストへの手紙』江原郊子・栗原詩子訳、音楽之友社、47頁)

数センチのずれでも、骨組みが狂えば家全体がゆがみます。リズムも同じです。わずかなずれが重なると、作品がもともと持っている性格まで変わってしまいます。

崩れ方は、甘くなる方向だけではありません。付点が鋭くなりすぎて、角ばって聴こえることもあります。甘くても鋭すぎても、曲が求めている性格からずれてしまう点は同じです。

弾いている本人にとっては小さなずれでも、聴く人には「曲の雰囲気の違い」として届きます。「だいたい合っている」では足りないのは、そのためです。

よくある崩れ方

レッスンでよく見る崩れ方を、いくつか挙げてみます。

付点のリズム

付点8分音符と16分音符の組み合わせが、三連符のように丸くなってしまう。反対に、後ろの短い音が短くなりすぎて、装飾音のように聴こえてしまう。特に、音楽が前へ進んでいく場面で崩れやすいように感じます。

16分音符のかたまり

4つずつの16分音符が続くとき、かたまりの最後の音が、次のかたまりの最初の音と同じ長さ、同じ発音になっていない。最後の音が次の音にくっついてしまい、長さや音量、発音が変わってしまうのです。3つや6つずつのかたまりでも、同じことが起こります。プロの演奏でもよく見られることです。かたまりの最後の音が、ほかの音と同じ長さと発音で弾けているか。そこに耳を向けてみてください。

アーティキュレーション

スラーの切れ目がなくなり、全部が一続きになってしまう。あるいは、アクセントがつくべきでない場所についてしまう。特に気をつけたいのは、短い音符にアクセントをつけないことです(拍の頭にある短い音符は別です)。短い音符が強くなると、それだけで拍の重心がずれて聴こえます。

こうした崩れは、本人が「難しい」と感じている箇所で起きやすいものです。指を動かすことに気を取られると、時間の感覚が後回しになってしまうのでしょう。難しいところほど、リズムを確かめる価値があります。

一番短い音符で数える

では、どうすればリズムを正確にできるのでしょうか。

『若いピアニストへの手紙』で勧められているのは、その音型の中で一番短い音符を単位にして数えることです。付点8分音符と16分音符なら、16分音符を単位に「1・2・3・4」と数える。付点8分音符は3つ分、16分音符は1つ分です。こうすると、付点が甘くなったり、後ろの音が短くなりすぎたりすることを防げます。

レッスンでは、声に出してリズムを読んでもらいます。私が細かい刻みを出して、その刻みに合わせてリズムを読めるようにしていきます。弾く前に声で正確に読めるようになると、指で弾いたときのリズムも変わってきます。

ご自宅では、メトロノームを細かい単位で鳴らすのがおすすめです。先ほどの例なら、拍ではなく16分音符で鳴らします。いまはスマートフォンの無料アプリでも、細かい刻みを簡単に鳴らせます。刻みに合わせて、まず声に出して読み、それから弾いてみてください。

テンポを変える場面でも、同じ考え方が使えます。リタルダンドやアッチェレランドでは、気持ちに押し流されて、徐々にではなく急にテンポが変わってしまうことがよくあります。音の長さを半分に分けて数えながら少しずつ変えていけば、テンポはなめらかに動いていきます。

楽譜に忠実であること

ルヴィエのもとで学んで強く感じたのは、楽譜にないことを足さない、という姿勢です。楽譜に書かれていないリタルダンドやアッチェレランドを加えない。自分の気分でテンポを変えない。

レッスンや演奏の場で聴いていると、楽譜にないテンポの変化を加える人は、経験を積んだ奏者を含めてかなり多いと感じます。ピアノに限った話ではありません。本人は表情をつけているつもりでも、作曲家が書いた時間の流れとは別のものになってしまうのです。

ファシナも、「音楽的解釈」を口実にリズムを崩すことをはっきり戒めています。そして、学び始めの頃にリズムを尊重する習慣を身につけないと、単純な付点のリズムでさえ崩してかまわないと思うようになってしまう、とも書いています。

ただし、楽譜に忠実であることは、機械的に弾くこととは違います。メトロノームのように弾くことも、テンポが勝手に揺れることも、どちらも楽譜から離れています。書かれた時間の流れを正確に捉えたうえで、その中で音楽を生かす。それが、楽譜に忠実に弾くということなのだと思います。

休符も数える

最後に、休符です。

音を弾いている間はきちんと拍を数えているのに、休符になったとたんリズムが曖昧になる。これもよくあることです。休符もまた、数えて測るものです。

レッスンでいちばん多いのは、休符の場所で鍵盤から指が離れておらず、休符そのものが消えてしまうケースです。次に多いのが、ペダルで音が残ってしまい、休符が埋まってしまうケースです。

休符のところで、本当に音が止まっているか。一度、耳で確かめてみてください。ペダルと休符の関係については、またあらためてお話しします。

正確さは、表現の土台

正確さは、表現を縛るものではありません。『若いピアニストへの手紙』でも、リズムの厳格さは詩情とぶつかるものではなく、むしろ曲全体の表現力を高めるのだと書かれています。そして、正確に弾けるようになったうえで本当に大切なのは、そのリズムを生き生きと感じることだ、とも。正確さは、表現を支える土台なのです。

正確さは、表現を縛るものではありません。むしろ、表現を支える土台です。次回は、その土台の上で時間を自由に使う「ルバート」について考えてみたいと思います。

本八幡でピアノレッスンをお探しの方へ

「付点がいつも甘くなる」「難しいところでリズムが崩れる」。そんな悩みがあれば、レッスンでご相談ください。

ストライプミュージックスクールでは、いま取り組んでいる曲を題材に、声に出してリズムを読むところから一緒に確かめていきます。崩れやすい箇所を見つけ、細かい単位で数えながら、正確なリズムを身につけていきましょう。

本八幡駅から徒歩1分。レッスンの詳細や体験のお申し込みは、ストライプミュージックスクール公式サイトの「大人のピアノレッスン」ページをご覧ください。

石川武蔵
石川 武蔵

ピアニスト。パリ国立高等音楽院ピアノ科修士課程を首席で修了。ストライプミュージックスクール代表として、大人レッスンと音高・音大受験を担当。

目次
  1. 「だいたい」のリズムは、曲の性格を変える
  2. よくある崩れ方
  3. 一番短い音符で数える
  4. 楽譜に忠実であること
  5. 休符も数える
  6. 正確さは、表現の土台
  7. 本八幡でピアノレッスンをお探しの方へ